SHiZEN×PROJECT

【サイディング・SHiZEN対談】 ディテールとオープンソースが変えるこれからの住宅と街並みとは?

2021/05/27

【第3部】建築技をシェアするオープンソーススタイルという新しい取り組みについて

こちらは対談の【第3部】の記事です。【第1部】【第2部】の記事はこちらからご覧ください。
【第1部】https://www.asahitostem.co.jp/shizen/project_detail.php?pj_id=3
【第2部】https://www.asahitostem.co.jp/shizen/project_detail.php?pj_id=4


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住空間をデザイン、創出する仕事の中でも、街並みに美しく映える住宅を「数多く」生み出すビルダーと、「一軒ずつ」で生み出す建築家という2種類のプロフェッショナルがいます。
今回お招きするのは、SHiZENプロジェクトに携わっていただいたこのお二人。
圧倒的なカリスマ性を誇るデザイン系ビルダー創業者の吉安孝幸(よしやすたかゆき)さん、提案型の設計事務所を主宰しディテールとそれにかかるコストのバランス感覚に優れた若手建築家の井上玄(いのうえげん)さん、の対談を行いました。

SHiZENではモノづくりの過程においても、新しい取り組みに挑戦しました。外壁未来デザイン会議では、吉安さんのネットワークで集結したデザイン系ビルダーの皆様と一緒にSHiZENの魅力を抽出し、育てていただきましたし、
井上さんには、SHiZENを使ってより美しい住宅に仕上げるための「10の建築技」 を一緒に構築していただいています(WEBで公開予定)


これまでサイディングだからとあきらめたり、気になっていた問題を、即戦力となるアイディアでリアルユーザーと解決していくこの新しいアクション。お二人のこれまで培った技術をオープンにしていくことにもなるわけですが、どういう想いで公開していただけたのか、これからのメーカーとの繋がりについて聞いていきます。



吉安孝幸(よしやすたかゆき)
建築家との協業や若手設計士の育成により、高いデザイン性のプロダクトを量産する試みを行い、創業以来10年間でおよそ1000棟の住宅を手掛ける。創業10年を節目に事業を手放して、現在は地域ビルダーのブランド化の支援などを行う一方で、住宅をスケルトンとインフィルに切り分けることで可変性のある住まい方を実現し、不動産資産の流動性の向上を目指した取り組みを行っている。



井上玄(いのうえげん)
住宅や別荘を中心に提案型の設計活動を行うと同時に、建築撮影や大学の非常勤講師などを通して建築の魅力を社会や学生たちに発信している。自分自身の移住体験や多拠点居住の魅力を発信しながら、「これからの暮らしと居の構え方」を模索し、多様化する価値観を包容する新しい建築や緩やかに繋がったまちの在り方を提案している。

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―今回のSHiZENは、「ちょっと違うね!」と思われたい方に向けた商品なのですが、このSHiZENを上手に使うとしたら、誰でも真似しやすいコツはございますか?

吉安
 実際私もプランニングが終わって仕様も決まった段階で、SHiZENを使ってみようかという話になったことがあり、見積もりをとったり割付を考えてみたりしたのですが、最初からSHiZENを入れることがわかっていたらできたことが、後から入れようとすると割付が合わなかったり、アルミサッシのサイズも合わなかったりして難しかったんですね。その経験からも、アルミサッシのサイズを最初からSHiZENに合わせて選ぶことは、上手に使うためのコツになるのではないでしょうか。

井上 アルミサッシの大きさは規格寸法が何種類かあって、何も考えなければそれを入れれば一番安く入るし、そうやって選んでいる人は多いと思います。
でも、サイディングの高さにちょうど合うものがないんですよね。僕は思うのですが、サイディングの高さで、アルミサッシの規格寸法を作ればいいと思うのです。だって世の中のサイディングって、ほとんどが(高さ)455mmですよね。(笑)

吉安 そうですね。近いところを選んでいくのですが、やはり合わないわけですよ。なぜそれがないのか不思議ですよね(笑)LIXILグループとしてサッシと外壁両方取り扱っているのに!
せっかく既製品なのだから、その辺りがモジュール化されて、いろんな人が再現できやすくなるといいですよね。作る側もいちいち悩まなくてよくなるよう、配慮していただけるとありがたいです(笑)


▲対談の様子。吉安孝幸さん(左)と井上玄さん(右)


―「作る側が悩まなくていい」というのは新鮮でした。これまでメーカー側がそこまで踏み込んで配慮したものって意外と少ないのではないかと思うのですが、「数多く」生み出す吉安さんと、「一軒ずつ」生み出す井上さん、お二人にとっても「作る側が悩まなくていい」配慮(おすすめのサッシ寸法などが記載されたガイド)というのはメリットとして感じられるでしょうか?

吉安
 それは嬉しいですよね。

―今回、SHiZENではモノづくりの過程においても、新しい取り組みに挑戦しました。外壁未来デザイン会議では、吉安さんのネットワークで集結したデザイン系ビルダーの皆様と一緒にSHiZENの魅力を抽出し、育てていただきましたし、
井上さんには、SHiZENを使ってより美しい住宅に仕上げるための「(仮称)10の建築技」 をご提案いただき、このWEBで近日公開予定です。これまで多くの「標準」を作り上げてきたお二人にとって、技術をシェアする「オープンソーススタイル」についてどう思われますか?


 
吉安 最初にSHiZENを見たときに「これはいい!」と思った私としては、そういう技術をシェアしていくことは何のためらいもないですし、日本の住宅デザインの底上げのためには必要だなというのは、ずっと感じていました。


▲吉安さんとの打ち合わせ風景

井上 例えば、はめ殺しの窓だったら、アルミの窓枠を使わずに塗り壁にガラスを刺すみたいなやり方もあるわけで、そういうものと比べると、既製品というからには「普及」させることに力を注いだ方がよくて、さらに底上げにつながらないと意味がないと思うんですよね。
一方でここ10年で思うのは、工務店さんも僕ら建築家といくつも仕事をやることで、慣れてきているんですよね。別の建築家とやった方法を逆に提案してくれるレベルまで達しています。そういった側面からも建築家のディテール技術のソースみたいなものは、標準化されてきているのではと感じています。


▲プロジェクトミーティングでの井上玄さん

―底上げのための「普及」をメーカーが担うことになって行く時、建築家やデザイン系ビルダーの役割はどのようにお考えですか?

井上 ディテールが売りですという建築家の多くは、既製品のサッシは使っていないですよね。オリジナルのスチールで全部やっていたり、かける金額の桁が違う住宅ばかりやっているので、直接的な「普及」という観点とは異なりますよね。
一方で、限られた予算の中では規格品をいかに工夫して作って見せるかが、面白いし腕の見せどころ。それをどんどんオープンにすることで、普及につながり住宅デザインが底上げされていくのだと思います。


吉安 我々は、たぶんディテールだけが売り物じゃないはずで、「世界観」などが見せ場なのであって、ディテールの技を自分の専売特許みたいにこだわる必要はないのではないでしょうかね。また、お金を持っていないと美しいものに囲まれて豊かな暮らしができないわけではないと思います。2000万を切る住宅であっても、その予算の中で精一杯作ろうとしているわけなので、既製品をうまく使って、デザインの創意工夫で心地よい空間を作っていくことが、我々の役割ではないかと思っています。

井上
 メーカーの考え方もそういう方向にどんどんなってきていて、例えばLIXILのサーモスみたいに框を見せないサッシが開発されたり、内装建材もこのような規格品がどんどん出てきているので、時代の流れはそうなっていると思います。

(写真  LIXILサーモス)


吉安 最初ステンレス枠の建具が出てきたときは、それを工務店が使うなんて驚きでしたが、すぐその後に2万円くらいの流通価格でフルハイトドアを作るメーカーが現れたりしましたからね。

―お互いに影響をし合って、メーカーも技術が進化していくということなのですね。

井上
 ディテールだけでは、建築家は持ちこたえられない時代になってくると思います。
メーカーが作れてしまうからね。しかもよく出来てるんですよ(笑)

ーそのような時代の流れの中で、確かに近年おしゃれな住宅は増えていますよね。

吉安 デザインが量産されるようなものになってきたおかげで、住まう人たちの目も自然と肥えてくるのだと思います。

井上 施主の奥さんでも、とても詳しい方がいたりします。最近では、インスタなどで写真を集められていて、この材料は北欧だから手に入らないのでは?と言ったら、自らサンプルを入手されていた方もいらっしゃいました。

―施主のデザイン意識が高くなってきているとは言うものの、街並みに対する意識はまだまだ低いような気がしてしまいますが、これから進むのでしょうか?

吉安
 意識はどんどん上がっているとは思います。ただデザイン意識の高い方たちでも、そこまでコストをかけられないというところがあります。そんな時、SHiZENを用いることで、街並みも意識した住宅になれるかもしれないという期待はありますね。
欧米の街並みが美しいのは、建築様式が決まっていてルールがめちゃめちゃ厳格だからこそ成り立っているもの。基本的なルールを抑えた上での自由が必要なんだと思います。


▲海外の住宅が建ち並ぶ外観イメージ

―SHiZENの使い方も基本を抑えた自由というのがあるといいねというご意見を、外壁未来デザイン会議(吉安さんのネットワークで集結したデザイン系ビルダーのコミュニティ)でいただいたことから、「10の建築技」 が生まれた訳ですが、どういうものであったらいいと思いますか?

井上 例えば建物のフォルムは自由だけど、この10の建築技を使えばSHiZENをより美しく使うことができて、街並みも整えることができる、そういうものであったらいいと思っています。

―日本の住宅デザインの中で、街並みを崩す要因って何だと思われますか?
 
井上 室外機かなぁ
吉安 私は住宅を建てた後に付けるエクステリア関連のものですかねぇ。エクステリアは住んだ後にオーナーが(設計者に相談せずに)つけるケースが多いので、意図しない結果になることもありますね。設計者とオーナーの繋がりと信頼関係が大切でしょうね。

―吉安さんは、1000棟近くも建てられてきたということは、街のようなものも作ってきたのでないかと思うのですが、街づくりで大切にしたいことはありますか?

吉安
 10区画くらいうちの住宅ばかりというときもありましたね。そういう時は外構計画が一番大事だと思っています。全体的にまとまりがあるようにしたり、敷地の境界線を感じさせないような、1つの街として景観を考えることを大切にしています。一つ一つの建物自体を主張させたくはないですね。
そういう目線で見ると、やはりこれまでの窯業系サイディングは主張が激しすぎるなと思いますね。また、「意匠性がとびきりいいサッシ作りました」とかも困ります。パーツごとに喧嘩する素材がたくさんあるのは良くないですね。


▲対談の様子。井上玄さん(左)と吉安孝幸さん(右)

―組織的にモノづくりをしていく中で、このように直接ご意見を聞きながら「商品を一緒に育てる」というのは業界的にも珍しいことだと思うのですが、今回、ご一緒させていただいて、それぞれのお立場でこれまで積み上げられてきた経験値からのお話はとても面白かったです。

井上
 こういうメーカーさんとの取り組みは、一つの住宅を設計するのとは別のやり甲斐があり、楽しいですね。今日は開放的で心地よいお店で気兼ねなく話すことができました。ありがとうございました。

吉安 こちらこそ、今日は楽しいひと時となりました。一つのプロダクトを世に送り出すことに対して、このようなストーリーがあるっていいですよね。

前号はこちら

 【第1部】https://www.asahitostem.co.jp/shizen/project_detail.php?pj_id=3
 【第2部】https://www.asahitostem.co.jp/shizen/project_detail.php?pj_id=4