【サイディング・SHiZEN対談】 ディテールとオープンソースが変えるこれからの住宅と街並みとは?
2021/04/30
▲吉安孝幸さん(左)と井上玄さん(右)
【第1部】サイディングのこれまでのイメージとSHiZENとの出会い
住空間をデザイン、創出する仕事の中でも、街並みに美しく映える住宅を「数多く」生み出すビルダーと、「一軒ずつ」で生み出す建築家という2種類のプロフェッショナルがいます。
今回お招きするのは、SHiZENプロジェクトに携わっていただいたこのお二人。
圧倒的なカリスマ性を誇るデザイン系ビルダー創業者の吉安孝幸(よしやすたかゆき)さん、提案型の設計事務所を主宰しディテールとそれにかかるコストのバランス感覚に優れた若手建築家の井上玄(いのうえげん)さん、の対談を行いました。
こちらでは3回に分けて対談の様子をお届けしてまいります。
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これまで住宅づくりの中で、サイディングを多く使われてきたお二人。
建築家とビルダーという目線で見る、これまでのサイディングのイメージと、今回のSHiZENを初めて見たときの感想をお聞きしていきます。
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吉安孝幸(よしやすたかゆき)
建築家との協業や若手設計士の育成により、高いデザイン性のプロダクトを量産する試みを行い、創業以来10年間でおよそ1000棟の住宅を手掛ける。創業10年を節目に事業を手放して、現在は地域ビルダーのブランド化の支援などを行う一方で、住宅をスケルトンとインフィルに切り分けることで可変性のある住まい方を実現し、不動産資産の流動性の向上を目指した取り組みを行っている。
井上玄(いのうえげん)
住宅や別荘を中心に提案型の設計活動を行うと同時に、建築撮影や大学の非常勤講師などを通して建築の魅力を社会や学生たちに発信している。自分自身の移住体験や多拠点居住の魅力を発信しながら、「これからの暮らしと居の構え方」を模索し、多様化する価値観を包容する新しい建築や緩やかに繋がったまちの在り方を提案している。
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サイディングといえば、「目地と割付」問題。
―お二人とも、ディテールを重視しながらも、「数多く」と「一軒ずつ」を生み出すという対局のお立場にいらっしゃいます。それぞれの目線で見て「今までの窯業系サイディング」にはどんなイメージをお持ちでしょうか?
井上 やはり「目地」が主張しているなという印象ですね。僕がサイディングを使うときは“目地をどう設計として生かしていくか”を大事にしています。
建築家は自分の設計するものに意図していないものが加わることを嫌がります。今回の場合、それはサイディングの「目地」です。逆に、その「目地」に窓や手摺、パラペットなどの高さを揃え、その目地を自分のデザインに置き換えたいと考え、サイディングの割付を検討します。
▲サイディングの目地を生かした事例(吉田研介建築設計室 HPより)
吉安 私がここ10年で生み出してきた住宅は、なんだかんだで1000棟近くあるのですがその8割がサイディングなんですね。ただ化粧サイディングではなく、無塗装サイディングなんです。その場合、「割付」が難しくもあり、楽しいところでもあると思います。
下から順に貼っていくとどうしてもキレイな納まりにはならないし、窓まわりも大変なことになるわけです。
デザイン住宅というカテゴリで「数多く」量を生み出す立場での経験をしてきたからこそ、無塗装サイディングを美しく見せる「秘伝のタレ」のようなものが生まれてくるわけですが、普通のビルダーさんが作るのは難しいのかなという印象がありますね。
メーカーさん、そんな頑張ってもらわなくても・・・
井上 サイディングの中でも2種類あって、吉安さんのおっしゃる「無塗装サイディング」と、よく街で見かける、石調やタイル調と言われる「化粧サイディング」は大きく違って、僕らの中では、●●調はそもそも選択肢にありません。
―どうして、石調やタイル調の化粧サイディングは、選択肢に入らないのですか?
井上 石じゃないのに、なんで石のプリントしてるの?って思ってしまうんですよね。
それは、素材そのものの良さを引き立たせるためには、「できるだけ化粧をしないで完成させる」というのがいいと僕は思っているので、その真逆ですよね。
吉安 普通の人にとって「サイディング」って、色々な素材をリアルに再現したものってイメージがあると思うのです。そして、メーカーの方々は再現する素材にいかに近づけるかに、それはもう大変な努力をかけていらっしゃる。でも使う側としては・・・
「そんな頑張ってもらわなくても、サイディングそのものの素材感のある商品を出してくれたらいいのになぁ」とずっと思っていました(笑)
―8割サイディングを利用されているとのことですが、採用されている理由はなんでしょうか?
吉安 機能性、施工性、スピード、天候への影響や、価格の面でもサイディングは、非常に使えますね。あとはディテールさえ作りこんでいけば、なかなか面白いものができるわけです。まぁ、そのディテールが難しいのですけどね。
でも色々と試したり頭を捻る楽しさもあったりして、無塗装板を使って色々遊ぶわけです(笑)。通常下から積み上げて貼っていくものを、上から割付けてみたらより美しく見えるのではないかとやってみるとか。
井上 遊びじゃなくて「検証」ですよね!(笑)
吉安 あはは、そうですね!お客様の家なのに、遊んじゃいけない(笑)
―このSHiZENを初めて見たとき、どういう印象を持たれましたか?
吉安 初めてSHiZENを見たのは、湘南・茅ヶ崎の熊澤酒造さんのカフェでしたよね?
初対面でいきなり「今日実はちょっと持ってきているのですが・・・」って、行ったら外に並べられていて(笑)
※https://www.asahitostem.co.jp/shizen/project_detail.php?pj_id=2でも初対面時の話を掲載しています。
▲初対面時、カフェの外に並べられた開発中のサンプル
そうそう、こういうの欲しかったんよ!」と嬉しくなりました。
あの時に、実際サンプルを見て、まだ形になっていないものもありましたが、そこをブラッシュアップしたり、世間に広めるお手伝いができるなら、すごく楽しい仕事だなと思いました。
ゆくゆくは、これまで使っていたものが全部SHiZENに切り替わるくらいスタンダードになったらいいなと思っています。
井上 僕は本社で最初に拝見させていただきました。僕自身はサイディングを使うときって、実は塗装品のシンプルなものを使っていました。なぜかというと、工場で塗装された物の安定した品質は有難いところがありますよね。ずっと気に入って使っていたボードがあったのですが、数年前にその会社がなくなってしまって・・・なので、それ以来サイディングは使っていませんでした。
そんな時SHiZENと出会って、いい意味で主張しない、かといってただの塗装品という感じでもない「ちょうど良い感じの質感のもの」が出たな!という印象でしたね。
▲プロジェクトミーティングでの井上玄さん
あとは、「シーリングレス」や「役物」にメーカーがかなり力を入れてこだわっていることにかなり驚きがあって。それまで僕ら建築家がディテールでこだわっている部分を板金屋さんに相談しながら作っていたものを、メーカーが作ってくれるのは良いことだなと思いました。
▲従来のシーリング納まり(左)とシーリングレス納まり(右)
※通常、板と板との間には約1cm幅のシーリング目地が入ります。
SHiZENは板同士を突き付けて納められるシーリングレスver.をご用意しています。
美しい建物のノイズとならない目地形状で壁面全体がシャープな印象になります。
詳しくは、https://www.asahitostem.co.jp/shizen/detail.php
▲役物のひとつである、出隅役物:従来からある同質出隅(左)とSHiZENで初めて設定したスチール出隅(中・右)
※通常、コーナー部にはL型の同質出隅を使用します。同質出隅と板との間には約1cm幅のシーリング目地が入ります。これが、“サイディング”感を決定付ける存在となっていました。SHiZENではスチール出隅を設定し、すっきりシンプルなコーナー部の納まりを実現しました。
詳しくは、https://www.asahitostem.co.jp/shizen/detail.php
吉安 私達も「役物」を作るために、板金屋さんに断面図描いて相談して、考えて悩んでトライ&エラーを繰り返してきた部分でしたから、メーカーが用意してくれるのは、すごいことですよね。
井上 僕の場合は、その物件ごとに施工会社や職人さんと相談しながら、オリジナルのディテールを詰めて行くのですが、これにはどうしても時間がかかりますよね。ある施工会社ではOKでも、別の施工会社だとNGになることもあり、 普及は難しくなると思うんです。でも同じようなディテールがサイディングメーカーの標準仕様になっていれば、誰でも安心して使える。これはすごい事だと思います。
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この続きは【第2部】これからの日本の住宅と窓談議 へ続きます。